「昔、人は素足で歩いていた。」

 五月末の事故で入院。今も松葉杖を使って移動している。先日、新しく架け替えられた橋を渡る機会があった。だが松葉杖を使うと結構歩きにくい。雨水を流すための緩い傾斜で左右の杖の高さが微妙に異なる。怪我をしていなけれは、体が勝手に体の傾きを修正していて、気付くことのないような橋だ。
 現金なもので、移動の手段が以前の方法に近くなるにつれ、入院中の不便な生活は忘れかけている。果たしてそれは『健康な体』に近づいているのだろうか。健康なふりをして、病める部分を内に蓄えていないだろうか。何より周りにいる人たちへの気配りを忘れた『忙しい』人間に近づいているのではないかと気掛かりである。
 怪我の痛みが去れば次は食事、その次は病室から外へ・・・。己の原始的な欲求の強さを知ったと同時に、新たな気付きをもたらしてくれた、あまり体験したくないが貴重な経験をした今年の夏である。