毎年10月も半ばを過ぎると時雨が降るようになり、長くて暗い冬が始まる。家も大気も揺さぶるように鳴る雪雷、何日も降り続く雪、時には前が見えなくなるほど降る。おんもへ出たいと待つ「春よ来い」の歌の意味が福井へ来て本当に理解できた。
ある日、車を運転していたとき、時雨れていた空の隙間から太陽が射し込み、虹が見えた。しばらく車を止めて見ていた。冬にも虹が見られるんだ、と新しい発見。また、暮れになると、夫の叔母さんが一抱え程もある水仙を届けてくださる。部屋いっぱいに拡がる香りに包まれて毎年お正月を迎えてきた。
高校生の頃の教科書に、空に虹を見るとき心が躍り上がる、という詩と、森の中を歩いていたら突然一群の水仙に出会うという詩が載っていたが、福井の風景ってあの詩と一緒だな、と思った。
この恵まれた景色と福井弁の暖かい言葉の中に暮らし、かけがえのない友達にも恵まれ、30年があっという間にすぎた。